若松孝二監督の映画「新宿マッド」(上映時は、新宿フーテン娘・乱行パーティー)は当時ピンク映画と認識されていたようですが、現在はアート作品の範疇で語られることが多いです。
役者を志すひとりの青年が何者かに殺害され、その青年のオヤジが真犯人を探すべく新宿中を徘徊するといったストーリーです。
そんで、「新宿マッドが犯人だ」という情報を得ます。
ここから先はネタバレになるので割愛します。
時代背景もあり、レボリューション的な思想もちりばめられててちょっと面倒臭いのですが、1970年の新宿の映像をたっぷり見れるし話も面白いです。
音楽を担当してるのが、柳田ヒロ(p)、陳信輝(g)、つのだひろ(dr)、石川惠(b)(敬称略)と、いった錚々たるメンツ。
便宜上、「新宿マッド」はフードブレイン作品となってますが映画公開時のロールには上記4人の名前がクレジットされ、フードブレインの名前はありません。
ちなみにつのだ☆ひろはヒッピー役で映画にも出演してます。
70年の3月頃にセッション・バンドとして活動が始まり、これが発展して「フードブレイン」と名前を付けて活動するようになったみたいです。
話を戻して「新宿マッド」のサントラ盤です。
曲名は無く、M1とかM2とかになってます。
肝心の音ですが、ハードロックあり、ブルースあり、プログレあり、前衛あり、ジャズあり、と、まあかなり混沌とした内容です。
この当時の日本のロック・ミュージシャンでも、特にアグレッシブでパワーが有り余ってる人達が集まって、制約の無い現場で演奏しているのですからこれは名盤になるのは当然といえば当然。
骨格となるリフがあり、各自がアドリブで演奏していると思われるのですが、全く聴いてて飽きません。
その場の勢いで演奏したからなのか、後にリリースされる「晩餐」よりもナマナマしいです。
ヒリヒリとした肌触りの音の固まりが狂気とも凶器とも言える感じで聴く者を金縛りにさせます。
バンドはこの後、石川惠に代わりルイズルイス加部が参加。
「フードブレイン」と名乗り活動を続けて行きます。
そして70年9月にリリースされたのがジャケットが無茶苦茶かっこいい「晩餐」です。
このセッションはつのだひろが急遽、渡辺貞夫と共にモントルー・ジャズフェスティバルへ出演することとなったため、2日で録音をしたそうです。
制作費(ギャラ)をある程度もらったことで、陳信輝はレスポールと当時の日本ではかなり珍しいマーシャル・アンプを購入。加部氏もベースとアンプを購入したようです。
曲は新宿マッドと同じく全曲オリジナルでインスト。
歌える人がいなかったということが理由らしい。
新宿マッド収録のM7が「晩餐」1曲目の「ザット・ウィル・ドゥ」として再録されてます。
前作と比べると音が整理されてて聴きやすい分、迫力という点では新宿マッドに軍配が上がりますかね。
演奏は変わらずアバンギャルドでパワーがあまりまくって暴走してますが。
晩餐はドイツでも発売されたのですが、ドイツのレコード会社でも絶賛されたという逸話が残されてます。
ドイツ人はこの手の音は好きでしょうね〜。
アルバムが発売される前にバンドは消滅。
陳信輝とルイズルイス加部はスピード、グルー&シンキ、つのだひろはストロベリー・パス、柳田ヒロはソロ活動へと向かうワケです。
ちなみに初期メンバーの石川惠はファー・ラウトというプログレバンドへ参加しています。